時計修理が難しい理由


長い年月による変化や劣化で、機械には摩耗や錆・曲がりや緩みがあり、修理には知識と経験、手間と時間が必要です。

非常に小さな部品で構成されているため、修理は簡単ではありません

時計修理は簡単だと考えられているお客様もいらっしゃいますが、実際のところは非常に難しく手間と時間のかかるものです。
1つひとつの部品が小さいため、取り扱いにも細心の注意が必要なことはもちろん、調整という作業1つを取っても、非常にわずかな調整を繰り返していく作業を続けていきます。

時計部品とメッシュケース

部品の小ささや形の特殊さから、作ることができない部品も多々あり、特別な機械や珍しい機械になれば取り寄せることができない部品もあります。
そのため、当初の予定期間より長くかかってしまったり、お届け後に再修理をさせていただくこともあります。
100年以上にわたって、数えきれないほどのメーカー・機種があり、時計それぞれの故障個所や原因もいろいろ。
簡単に部品を交換とはいかないため、修理が難しい理由もさまざまです。

動いているものでも故障や破損がある

アンティーク時計の修理が難しいと言われる理由は、「動いている時計でも壊れている」可能性があるためです。
例えば軸や歯車一つを取ってみても、軸が若干折れて短くなってはいるものの動いている・歯車の歯に欠けがあるものの動いている・部品に亀裂があるものの動いているというケースがあります。
また古いものの中では、部品としては壊れてしまってはいるものの、古い油が固まって固定されていたり、ゴミや汚れ・錆があるおかげで、奇跡的なバランスで動いているというものがあります。

そのため、問題無く動いている時計であっても、オーバーホールの掃除や注油の工程で、奇跡的なバランスを保っている元になる汚れなどが取り除かれてしまうことで、動きが良くなるはずのものが、動かなくなってしまうというリスクがあります。
このような理由から、ご購入される前にオーバーホールが受けられていない時計には、見えないリスクがあることになります。

天芯の曲がり、軸先端の折れ

【 先端の曲がりや折れ 】

以前の修理が原因となって直せないものもある

100年経っている時計であれば、3年に一度のオーバーホールを受けていたとすれば30回、5年に一度のオーバーホールを受けていたとすれば20回、10年に1度だったとしても10回のサービスを受けている計算になります。
それだけの数のオーバーホールで、毎回、腕の良い職人が見ているのなら良いのですが、決してそうでないケースもたくさんあり、近年は特にそういったケースが目立ちます。
また何人ものオーナーを経ている時計であれば、その時々に「なんとか動かすため」だけの修理が施されているものもあります。

接着された部品

【 古い懐中時計の接着された部品 】

例えば軸が短くなっている部品があるとして、本来であれば軸を直す修理が必要であるにも関わらず、それを直さずに本体を削ってしまっていることなどもあります。
家に例えるなら1本の柱が短くなっているので、その1本を継がなければいけないにもかかわらず、全ての柱を短くしてしまうようなものです。
このような修理は「不可逆的」で、一度行ってしまうと元の正しい状態に戻すことはできず、正しくない状態の中で正しく動くように修理をしなければなりません。
本来は取られるべきではない修理方法ですが、このような修理がなされることで、次回以降の修理ができない・難しくなることがあります。

部品交換だけでは直せないものがある

古い時計の場合は特に、部品が摩耗していることがあります。
1つの部品が摩耗していると、全てにその摩耗に関係して歪曲がでている可能性があります。
このような場合には、摩耗している1つの部品の交換だけでは済みません。
摩耗した部品によって他の部品が寄りかかっていたりしますので、部品の矯正や難しい調整が必要になります。
ただ単に交換するだけでは、摩耗した部品を交換したことによって、摩耗していた部品は良い状態になりますが、その部品によって歪曲していたり寄りかかっていたりした他の部品は、今度はその状態の良い部品によって影響を受けることになります。

このような理由から、1つを直せば他の部分にも調整が必要になるいたちごっこのような現象が起こることもあります。
良い部品を入れることによって動かなくなることもあり、ひとえに交換と言っても、交換をしたうえで他の部品との兼ね合いを考慮し、時計として正しく動かしてあげることが重要になります。

同じ年代・同じ型番の部品でも合わないものがある

部品の1つが壊れてしまっていて、その部品を取り寄せる必要がある場合、普通に考えると、同じ年代で同じ型番の機械の部品であれば、交換すれば済むように思われがちです。
ただアンティーク時計や古い時計にあっては、同じ型番の同じ部品であっても、合わないことがあります。

合わせる部分の摩耗なども関連してきますが、アンティーク時計が作られた当時は、まったく同じものとして作られた部品であっても、作られる部品の精度には違いがありました。
その時計ごとに微調整を行って部品を合わせていたことが多かったため、まったく同じ年代の同じ型番の部品に交換しても、ただ交換しただけでは正しく動かないことがよくあります。
また作られていた年代によって、同じ機械であっても「前期・後期」「他メーカーへの供給品」など、わずかに違いがあって合わないこともあります。

錆びや劣化による破損

外観的には問題の無い時計でも、内側や部品には錆や金属疲労などの劣化が出ているものがあります。
このような時計は、時計を開けたり分解しようとするだけで破損してしまうものもあります。
時計として外観の見た目は綺麗であっても、内側の機械の部分に問題が出ていると直せないことや、分解時に破損してしまう可能性があります。

オーバーホールや修理もさまざま

オーバーホール・修理といってもその内情は様々です。
車の車検と同様に、あのお店に出したら調子が良かったけど、このお店に出したら調子が悪くなった。
こういったケースが時計にも当てはまります。

お店や職人によっても違いますが、修理=商品であるわけですから、作業内容も時間やお金との兼ね合いになってきます。
時計によっては、本来、何日も手間と時間をかけて、修理をしなければならないものもありますが、それを短くすることはできないわけではありません。
時計ごとにきちんとした作業手順を踏めているのか、正しい作業内容が行えているのか、作業をするだけの時間が取れるのかは、仕事を受ける量や頂く料金に大きく関わってきます。

料金が安ければ、それだけ数をこなさなければならないということになります。
そのためお店や職人によっては、本来あるべきではありませんが、通常踏むべき手順や材料を省略されてしまうことがあります。
粗い修理をされた時計は、その場だけは動くかもしれませんが、短い期間で問題が出てしまったり、次回以降の修理に問題をきたすことがあります。


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